みなし役員に対する退職金
―「役員を辞めた」だけでは退職金にならないことも
事業承継を考える経営者にとって、「いつ退職金を受け取るか」は非常に重要な問題です。
特に、会社の代表や役員を退任した後も、後継者を支えながら会社に関わり続ける場合には注意が必要です。
形式上は役員を退任していても、実質的に経営に関与していると判断されれば、支給された退職金が税務上の「退職給与」として認められない可能性があるからです。
■「役員を辞めた」「報酬を半分以下にした」だけでは不十分
役員が代表取締役などを退任した後、
・非常勤役員になる
・監査役になる
・役員報酬を大幅に減額する
といった形を取ることがあります。
一般的には、役員としての地位や職務内容が大きく変わり、報酬がおおむね50%以上減少した場合などに、「分掌変更による退職」として退職金を支給するケースがあります。
しかし、こうした形式的な条件だけを満たせば、必ず退職金として認められるわけではありません。
退任後も、その人が会社の経営上主要な地位を占めていると認められる場合には、税務上「実質的には退職していない」と判断される可能性があります。
■注意したい「みなし役員」
会社法上の役員は、取締役や監査役などです。
一方、法人税法上の「役員」は、会社法上の役員よりも広い範囲で考えられます。
肩書きとして役員ではなくても、実質的に会社の経営に従事している人については、「みなし役員」と判断されることがあります。
例えば、社長を退任して退職金を受け取った後、
「役員でも社員でもない顧問だから大丈夫」
と考えていたとしても、実際には、
・重要な経営判断をしている
・後継社長に指示を出している
・銀行との交渉を行っている
・人事を決定している
・新規事業について最終判断をしている
といった状況があれば、実質的に経営に従事していると判断される可能性があります。
その場合には、税務上「みなし役員」とされ、受け取った退職金についても、退職給与として認められない可能性があります。
■国税不服審判所では何が判断されたのか
国税不服審判所の令和2年12月15日の裁決では、退職した旧役員が、退職後も実質的に会社経営へ関与していたかどうかが問題となりました。
判断にあたっては、主に次のような点が検討されています。
1.経営会議への出席や指示命令
2.経営会議以外での指示命令
3.金融機関などとの交渉
4.新規事業の決定など
この事案では、旧役員が退職後も経営に関与していたことを示す客観的な証拠が認められなかったため、退職金として認められました。
逆にいえば、退職後も事業方針、人事、取引先との交渉、銀行との折衝などについて、実質的な意思決定に関わっている場合には、「退職した」と認められない可能性があるということです。
■重要なのは「肩書き」ではなく「実態」
税務上の判断で特に重要なのは、
「社長を辞めたか」
「役員登記から外れたか」
「報酬を減らしたか」
という形式だけではありません。
退職後、実際に何をしているのかが重要です。
例えば、
「後継者から相談を受けているだけ」
なのか、
それとも、
「最終的には前社長が決めている」
のかでは、意味が大きく異なります。
事業承継後も創業者や前社長が会社に残る場合には、役割や権限を明確にしておくことが大切です。
■生涯現役を希望する経営者はどうすればよいか
経営者の中には、
「会社を完全に辞めるつもりはない」
「元気なうちは後継者を支えたい」
「若い社員に技術や経験を伝えたい」
という方も少なくありません。
そのような場合、無理に生前退職金を受け取ることだけが選択肢ではありません。
従来どおり役員報酬を受けながら経営に関わり、後継者を支援し、死亡時に死亡退職金を支給する方法も検討できます。
死亡退職金については、一定の要件のもと、みなし相続財産として相続税の非課税制度の適用を検討することもできます。
■退職金を支給する前に「退職後の働き方」を考える
役員退職金については、金額だけではなく、
「退職後、その人が会社でどのような立場になるのか」
まで含めて考える必要があります。
特に事業承継の場合には、
・退職金の支給時期
・退任後の役職
・報酬
・経営への関与
・後継者との権限分担
・死亡退職金との比較
などを総合的に検討することが重要です。
形式だけ整えて退職金を支給し、その後も実質的に以前と同じように会社を経営していると、思わぬ税務上の問題につながる可能性があります。
■まとめ
役員退職金で最も大切なのは、「形式上退職したか」ではなく、「実質的に退職したか」です。
特にオーナー企業では、社長交代後も前社長が経営に深く関わるケースが多いため、注意が必要です。
生涯現役で働きたいのか。
一定の時点で経営から完全に退くのか。
後継者をどのような立場で支えるのか。
これらによって、最適な退職金の受け取り方も変わってきます。
税理士法人あんしん合同会計では、役員退職金だけでなく、事業承継、相続、会社経営まで含めた総合的なご相談に対応しています。
「そろそろ事業承継を考えたい」
「社長を退任した後も会社に関わりたい」
「退職金をいつ受け取ればよいか分からない」
という経営者の方は、退職金を支給する前にぜひご相談ください。

